茨城県境町「自動運転バスを活用したサステナブルなまちづくり」

展開地域名: 茨城県境町

分野:
交通
観光
地域活性化
スマートシティ
キーワード:
自動化
コミュニケーションツール
AI
IoT
自動運転
MaaS
ビッグデータ

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解決すべき課題

■公共交通網の脆弱性:

本町には鉄道駅がないことから、路線バスやタクシーが高齢者などの交通弱者にとって欠くことのできない重要な交通手段。一方で既存のバスやタクシーを運行する地元交通事業者からは「運転手の高齢化が進み人材確保が難しいことから路線の拡張、場合によっては維持も難しい」との見解が寄せられており、交通事業者の事業の継続性が課題。

■高齢者が安心して暮らせる町づくり:

● 本町では 2022 年 4 月 1 日時点の 65 歳以上の人口が 30 % を占めており、全国平均(2020 年:28.4 %)に比して高い状況にある。また、70 代以降の高齢者の移動の不自由さが深刻であり、買い物や通院において 70 代では 10 % 程度、80 代では 30 % の町民が「家族・知人の送迎」に頼っている。

● 高齢者が 90 歳を超えて免許を返納したくてもできないくらい公共交通インフラが弱いため、将来免許を返納しても安心して暮らせる町づくりが課題。一方、本町における免許返納者が増加傾向にあり、高齢者や交通弱者自由に移動できる持続可能な公共交通網の整備が急務。

■地域活性化:

新型コロナウイルスの感染拡大により町経済は大きな打撃を受けている。花火大会などの多くの人出が見込まれるイベント等の開催を中止した影響で、観光推進の中心拠点である道の駅さかいの利用者数及び売上高は令和 2 年 12 月現在で前年度比 5 割程度と大きく低迷。これまで地元経済を牽引し、雇用を支えてきた農畜産業や地元飲食店も大きな打撃を受け、廃業や規模の縮小といった厳しい状況におかれている。

解決の手法

■令和 2 年 11 月 26 日より、自治体で初めて定時・定路線の自動運転バスの運行を開始。事業主体は本町で、運行業務を BOLDLY 株式会社に委託。

● リモートで監視し、リアルタイムで乗客を見守ることのできる自動運転バスを活用。ソフトバンク株式会社の子会社である BOLDLY株式会社と、株式会社マクニカの協力のもと、自動運転バスを 3 台導入、生活路線バスとして定時・定路線での運行を実施。

(境町「町政情報」参照。)

・バスは、フランスの NAVYA社製「ナビヤ・アルマ」(境町観光協会「自動運転バス【NAVYA ARMA】」より。)

・複数の自動運転車両の運行を遠隔地から同時に管理・監視できるソフトバンクの子会社Boldlyの自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を活用。


【Dispatcherの遠隔地から実行できる装備機能】:
 
 ● 走行指示 :

 ・路線バスのように決まった時間に決まった経路を走らせるダイヤ走行指示や、空港内の牽引車のように決まった経路をつど指定する時間に走らせる予約走行指示などが可能。

 ・複数台の車両スケジュールを一覧で調整することが可能。

 ● 状態監視:

 ・遠隔地から自動運転車両を監視する遠隔監視者は、車両詳細画面から速度やエネルギー残量、機器の正常・異常などの車両状態、車内外に取り付けられたカメラの映像をリアルタイムで確認できる。

 ・車両一覧画面からは運行されている車両がリストと地図で確認できる。

 ・車内の映像は人工知能(AI)が常時画像処理して監視して、乗客の転倒のおそれのある行動が発生した場合には、注意喚起と同時に、Dispatcherを利用している遠隔監視者に対してアラート通知を発信。

 ● 走行可否判断:

 ・ 安全な走行を維持するための 点呼・車両点検・ODD(Operational Design Domain:運行設計領域)確認等、運行前後の管理業務をより簡単・確実に行えるツールを備えている。

 ● 緊急時対応 :

 ・もしもの時の緊急事態には、乗客と遠隔監視者の双方から通話発信が可能。

 ・車内ディスプレイに状況報告を表示すること、車内で乗客自身が現在地情報を把握すること等も可能。

 (SoftBank 「DISPATCHER」とカタログ「Dispatcher」より。)


● バス停については、銀行・郵便局・スーパー等の生活利便施設の他、隈研吾氏設計の道の駅や東京駅直結の高速バスターミナルにも設置。

・自動運転バスの運行ルートを設定するにあたっては、住民へのインタビューなどを実施した他、町内の人流データを解析し、定量的に人の密集度が高い地点を結ぶ形でルートを設計。

● 人流解析技術を用いてエリア内の実勢速度を計測し、20 km/h の低速自動運転バスが運行しても他の交通に影響を与えない経路を設定。

● 内閣府「地方創生推進交付金」と国土交通省「ビッグデータを活用した実証実験事業」支援を活用(3 年間で総額 1 億 5,000 万円)。

● 運営コストは「ふるさと納税」と補助金を活用。


【運行情報】

・乗車料金:無料

・乗車人数:最大 11 名乗車可能だが 8 名に制限中(令和 3 年 10 月 4 日より。)

・提示運行:午前 9 時 25 分 ~ 午後 4 時まで(土日祝日も運行)

(茨城県境町HP、境町観光協会「自動運転バス【NAVYA ARMA】」参照。)

解決における工夫点

・携帯電話の位置情報ログデータのビッグデータを活用し、運行改善に役立てている。

・利用者は MaaSアプリによって、スマホでリアルタイムに運行状況を確認することができる。

・自動運転バスというデジタル技術を実社会に浸透させるために、導入当初はアナログな活動を徹底した(乗車体験会、沿線にビラ配布、グッズの配布等)。

・また、車両のラッピングでは、町出身のアーティストとの共創や、デザインコンテストの開催など、地域住民を巻き込んで受容性の向上に取り組んだ。

・地道な広報活動の結果、町民からも自動運転バスの導入に理解・協力をいただいた(バス停の敷地の提供や、路上駐車の減少など)。

事例による成果

● 利用者の声では、高齢者にも「移動が可能になる」、「あると便利」、「年寄りには良い」など好評。

● 2020 年 11 月の運行開始時点では、シンパシーホール~河岸の駅さかい間の往復のみの運行であり、生活利用ではなく体験としての利用が多かった。その後、2021 年 2 月から町中心部の生活拠点(病院、郵便局、子育て支援施設、銀行)にバス停を設置した他、2021 年 8 月からは、東京駅発着の高速バスのターミナルから町内の観光施設をめぐるルートを開設した。

 ⇒ 路線バスとの交通結節点である河岸の駅さかい、高速バスとの結節点である高速バスターミナル、そして集客拠点である道の駅さかいが全て自動運転バスにより接続した。

 ⇒ このように利便性や認知度の高まりにより、高齢住民が普段の生活の足として利用するようになった他、町外の住民が自動運転バスに乗って観光に訪れることも増え、町内外の交流が活発化した。乗車人数はコロナ禍による外出自粛が重なり上下したが、蔓延防止措置の解除後は順調に拡大。

● バス停を、銀行・郵便局・スーパー等の生活利便施設の他、隈研吾氏設計の道の駅や東京駅直結の高速バスターミナルにも設置した関係で、町内外の方に多数乗車いただいている。(コロナ禍で乗車人数を定員の半分以下の 4 名、緩和後 8 名に制限していたにも関わらず、運行開始後 1.5 ヶ年で累計 8,800 人乗車。)

● 2022 年 12 月 22 日時点では累積乗車人数 13,083 人、累積走行便数 11,982 便を計上。
(Twitter 公式アカウント「Twitter 公式アカウント 境町自動運転バス(ARMA)運行情報@abi_sakai」より。)

● 経済効果:

・自動運転バスというデジタル技術を全国に先駆けて導入したことにより、当初想定していなかった効果が生み出されている。自動運転バス 3 台の 5 年間導入予算は 5.2 億円であるが、運行開始から 1 年半で総額 8.5 億円の経済効果があった。
(内訳:国の補助金や寄付などの直接的な効果で 5.2 億円、広告効果や消費拡大などの間接的な効果で 3.3 億円。)

● デジタルを活用した更なるバス機能の拡張:

・さらなる利用促進の取組みとして、LINE を活用した自動運転バスの予約システムを開発した他、スマートフォンを持っていない利用者向けにバス停から予約ができるスマートバス停の実証実験も実施した。加えて、車両への顔認証デバイスを設置し、乗客数をカウントする取組みも実施。

● 本取り組みは、2022年度 夏のDigi田甲子園はインターネット投票結果「実装部門 町・村」の部門で 7 位に選出された。

● 運営における官民連携の取組みが評価され、2022 年 2 月、「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」を受賞。


【今後の展望】

●【信号協調の実装によるレベル 4 運行の実現】

[背景]

・本町での自動運転バス運行における自動運転比率は約 70%で、残り 30%は車内の運転者が手動で運転している。

・手動が必要な主要因は、信号通過時と、信号がない交差点の右左折時であり、これは自動運転バス単体で対応できないため、路側インフラからの支援が必須(信号灯火色情報を通信で車両に送る等)。

・路側インフラを整備するため、「デジタル田園都市国家構想推進交付金(内閣府交付金、type1)」に採択、2022 年度中に実装を行う予定。


【今後の展望】

自治体初の定時・定路線の自動運転バス運行を開始した本町において、路側インフラと連携し信号協調及びレベル 4 運行を実現する。これにより、本町のみならず全国における自動運転の普及を促すモデルケースを構築することで、公共交通の赤字・人手不足問題の解消につながることを目指す。

事例が与えた影響

● 境町を訪れる人口が増えた。

・視察(2022 年 3 月 31 日時点 累計視察団体の受け入れ 121 団体、累計視察人数 491 人)、観光客が大変多い、

● 地域住民への影響:

・免許を返上しても暮らせる見通しがついた。

・買い物に行けるようになった。

・塾の送り迎えがいらなくなった。

・境町に来る人が増えた。

・東京駅行きの高速バスと接続で交通が便利になった。

(デジタル庁「資料7 茨城県境町におけるNAVYA ARMAを活用したまちづくりについて」参照。)

事例の継続性

継続運用中

事例の運用期間

2020 年 11 月~継続運用中

参考資料

本事例は、「2022年度 夏のDigi田甲子園 茨城県の取り組み」を中心として、以下の資料を参照して編集しています。
※ 以下の資料の参照先は、調査時点でのものです。参照先の構成によっては、リンク切れとなっている場合があります。あらかじめご承知おきください。

■デジタル田園都市国家構想 DIGIDEN

●2022年度 夏のDigi田甲子園 

・茨城県の取り組み
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/archives/koushien/chiiki/ibaraki.html

・推薦調書
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/archives/koushien/chiiki/pdf/08-3.pdf

・夏のDigi田甲子園結果発表
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/koshien/kekka/2022_summer/index.html

●デジ田メニューブック 

・自動運転バスを活用したサステナブルなまちづくり
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/menubook/2022_summer/0024.html#contact

■政府インターネットテレビ

・茨城県境町|自動運転バスを活用したサステナブルなまちづくり|夏のDigi田甲子園
https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg24915.html?t=214&a=1

■デジタル庁 

・資料7 茨城県境町におけるNAVYA ARMAを活用したまちづくりについて
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d8994158-9dc0-4f5c-89cb-a59ee381ed4d/48f0ae61/20220413_meeting_mobility_outline_07.pdf

■国土交通省

・令和3年度 ビッグデータ活用による旅客流動分析実証実験事業成果報告書
ビッグデータ・自動運転バスを用いた地域経済活性化 令和4年3月(茨城県境町)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/soukou/content/001489851.pdf

■茨城県境町
https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/

・町政情報
https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002440.html

 ーTwitter 公式アカウント 境町自動運転バス(ARMA)運行情報@abi_sakai
https://twitter.com/abi_sakai/status/1605702245483675649?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Eembeddedtimeline%7Ctwterm%5Escreen-name%3Aabi_sakai%7Ctwcon%5Es1

・境町が第1回クルマ・社会・パートナーシップ大賞を受賞しました
https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002832.html

■LINE API Use Case

・LINEで気軽に自動運転バスの予約を実現!茨城県境町から始まる自動運転バス オンデマンド予約システムのLINEミニアプリ活用事例
https://lineapiusecase.com/ja/technicalcase/boldly.html

■境町観光協会 自動運転バス【NAVYA ARMA】
https://www.sakaimachi.jp/jidou-about.html

■note BOLDLY Inc.

・DISPATCHER
https://note.com/boldly/n/nb3df4570ffa8

■SoftBank

・DISPATCHER
https://www.softbank.jp/drive/service/dispatcher/
 
 ーカタログ Dispatcher
https://www.softbank.jp/drive/set/data/service/img/shared/pdf_catalog_03.pdf?20221111

・境町の自動運転バスが1年間の安定運行を達成~「2021年度クルマ・社会・パートナーシップ大賞」で大賞を受賞 ~ 2022年2月8日
https://www.softbank.jp/drive/set/data/press/2022/shared/20220208_01.pdf

・境町自動運転バス実用化2021年度安定稼働レポート 2022年2月8日 Boldly株式会社
https://www.softbank.jp/drive/set/data/press/2022/shared/20220208_02.pdf

■日本自動車会議所

・INFORMATION クルマの情報館 自動車産業インフォメーション
「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」発表 大賞は茨城県境町 2022年1月20日
https://www.aba-j.or.jp/info/industry/16784/

■地域イノベーション on ASCⅡ

・ビッグデータを使って新路線を設定 挑戦を続ける茨城県境町の自動運転バス 2022年03月21日
https://ascii.jp/elem/000/004/086/4086312/2/

■日本経済新聞 

・自動運転バスをLINEで呼び出し 茨城・境町が実証実験 2022年3月3日 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC033940T00C22A3000000/

■日経BP総合研究所
 
・茨城県境町で自動運転バス実用化から1年。見えてきた成果と課題 2022.03.16 
https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/022100208/

■ITmediaビジネスONLINE

・「自動運転バス」実用化から約1年、茨城県境町の変化は? 2021年11月03日
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2111/03/news010.html

■バスグラフィックTV 

・【BOLDLY】茨城県境町 自動運転バス布施貴美子レポート[ 前編 ]
https://www.youtube.com/watch?v=B6MRWB2Hb3Q

関連する図表・動画

●デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
・【茨城県境町】自動運転バスを活用したサステナブルなまちづくり
https://www.youtube.com/watch?v=yXWkGomqkng

事例に関する問い合わせ先

茨城県境町 地方創生課
Tel: 0280-81-1309

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