株式会社QPS研究所「小型SAR衛星コンステレーションによる準リアルタイムデータ提供」

展開地域名: 福岡県

分野:
防災
宇宙技術開発
キーワード:
AI
IoT
衛星

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解決すべき課題

■現在打ち上げられている地球観測衛星のほとんどは、カメラ(光学センサー)を使用して地球を撮影している。しかし現在の光学センサーの技術では、夜間や天候不良時の撮影は不可能。地球のおおよそ 75 %が常に夜間もしくは天候不良であるという事実に対し、これでは真の地球観測にほど遠いものがある。24時間、どんな天候でも観測できる衛星が必要。
(QPS「PROJECT」より。)

解決の手法

■ ㈱ QPS研究所はこの課題を解決できる合成開口レーダー「SAR(Synthetic Aperture Radar)」に着目。SAR は光学カメラとは異なり、昼夜・天候関係なく、地表を観測できるレーダー技術。しかし既存の SAR衛星は、大きなアンテナと多量の電力を必要とするため、通常は 1トンや 2 トン以上と大型の衛星が一般的。さらに、常に観測地点の上空を飛んでいる状態にするためには多数の衛星を打ち上げる必要があり、膨大なコストと労力が必要になる。

・QPS研究所: 九州に宇宙産業を根差すことを目指して2005 年に福岡に創業した。九州大学の 20 年以上の小型人工衛星開発の技術をベースに、名教授陣と若手技術者、実業家、そして 20 社以上の九州の地場企業と一緒になって宇宙技術開発を行っている。

● QPS研究所は、軽量で収納性が高く、宇宙で展開する大型のアンテナによる小型SAR衛星を開発。70 cm 分解能という 従来の衛星に比べて 20 分の 1 の質量の 100 kg 級小型SAR衛星。直径 3.6 mもある大型のアンテナだが、直径80cm、高さは 15 cm ほどまでに小さく畳むことが可能。

・宇宙に打ち上げられた後にバネの力を使って、少しのたるみもない綺麗なお椀型のアンテナに展開し、強い電波を出すことが可能になる。アンテナのリブは糸島市にあるバネメーカー「峰勝鋼機株式会社」、その他の構造部品の製作と組み立ては筑後地域で活動する「円陣スペースエンジニアリングチーム」、金属メッシュの縫製は大川市の「カネクラ加工」の協力があり、福岡を中心とした様々な技術を結集して完成した。

(QPS「PROJECT」参照。)

● 2021 年 5 月に小型 SAR衛星として日本で最も精細なSAR画像の取得に成功した。今後、100kg 級小型SAR衛星を 36 機打ち上げ、2025 年以降には世界中のほぼどこでも約 10 分ごとに観測する「準リアルタイムデータ提供サービス」を展開する。同研究所は小型SAR衛星 36 機による準リアルタイム観測データ提供サービスを目指しており、現在 3 機の衛星を運用中。


ー【3 機の衛星運用までの具体的な取り組み】ー

● 2019 年 12 月11 日、日本初の 100kg 台 小型SAR衛星である QPS-SAR 1号機「イザナギ」は、インドのサティシュ・ダワン宇宙センターからロケット PSLV にて打上げに成功。翌日 12 月12 日早朝にイザナギと初交信に成功し、12 月 16 日には衛星の要であるアンテナの展開に成功。12 月 18 日にはレーダーの使用を開始した。イザナギは衛星機能の 95 % の成功を確認することができるが、最後に一部不具合が見つかり、最終ステップのデータの画像化には至らず、これをもとに 2 号機の改良に取り組んだ。

● 2020 年 2 月、QPS研究所 と JAXA は、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」(※)の下、小型SAR衛星による準リアルタイムデータ提供サービスについて、両者協力して事業コンセプトの検討、即ち、事業コンセプト共創を開始した。本共創の開始にあたり、QPS研究所とJAXAは、2020 年 2 月 26 日に、「小型合成開口レーダー(SAR)衛星コンステレーションによる準リアルタイムデータ提供サービスの事業コンセプト共創」についての覚書を締結した。

※J-SPARC(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)は、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す新しい共創型研究開発プログラム。

・同サービス事業は、小型SAR衛星を 36 機同時に運用することで得られる、準リアルタイムといえる 10 分毎に観測したデータの利用を促進するもの。得られた画像データと気候データや市場・経済データ等とを組み合わせることで幅広い活用方法が期待されている。

(JAXA「36機の小型SAR衛星による準リアルタイムデータ提供サービス事業の創出に向けたJ-SPARC事業コンセプト共創の開始について」より。)

● 改良後の QPS-SAR 2号機「イザナミ」は 2021 年 1 月 25 日にケープカナベラル 空軍基地から SpaceX 社のファルコン9 によって打上げられ、高度約 525 kmに投入された。打上げの翌日、1 月 25 日にイザナミとの初交信に成功。そして 1 月 30 日にはアンテナを展開。1月30日にはアンテナを展開。その後、衛星の調整を続け、3 月 3 日には待望のファーストライト(初画像)の取得成功を発表した。また、5 月 13 日には小型SAR衛星において日本で初めて70cmという高分解能かつ高精細な画像の取得に成功しました。

● 2022 年10 月に、本格商業衛星となる、衛星コンステレーションを成すための最初の2機という役割に向けて改良を重ねた QPS-SAR 3、4号機「アマテル-I、アテマル-II(アテマル・ワン、アテマル・ツー)」が鹿児島の内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケット6号機によって打上げられた。しかし、打上げ後、ロケットの 3 段を 2 段から分離しようとする時点で目標姿勢からずれていることが分かり、衛星を地球周回軌道へ投入できないと判断されたため、指令破壊信号が送られ打上げは失敗となった。

● 続く 5号機は契約したロケット事業会社の状況により打ち上げ日を新たに調整中であったため、5号機に先行し、2023 年 6 月 13 日に、ヴァンデンバーグ空軍基地から米国SpaceX社のロケット「Falcon 9」によって、6号機(「アマテル-Ⅲ(アマテル・スリー)」)が打ち上げられた。アマテル-Ⅲには QPS-SAR2号機「イザナミ」によって取得した SARデータを搭載。同日 6 月13日、アマテル-Ⅲとの初交信が無事に成功し、衛星の各機器も正常に作動していることを確認。初画像の取得を目指す。


(PQR「PROJECT」、「2023年6月13日火曜日(日本時間)にQPS-SAR 6号機「アマテル-Ⅲ」が打上げられ、初交信に成功しました!」、PR TIMES「QPS研究所の小型SAR衛星6号機 「アマテル-Ⅲ」の打上げオンライン・パブリックビューイング開催決定のお知らせ 2023年6月以降にSpaceX社Falcon9で打上げ予定です」参照。)

解決における工夫点

アンテナ開発のために100以上の試作品を作り、何百回もの試験を行った。
(QPS「PROJECT」より。)

事例による成果

● 2021 年 1 月 25 日に打ち上げられたQPS-SAR 2号機「イザナミ」は、3 月 3 日には待望のファーストライト(初画像)の取得成功を発表した。また、5 月 13 日には小型SAR衛星において日本で初めて 70 cmという高分解能かつ高精細な画像の取得に成功した。

● 2023 年 6 月 13 日に打ち上げられた「アマテル-Ⅲ」の軌道投入後の初期チェックの一環として、あらかじめ衛星内に格納していた SARデータに対し、本装置を用いて軌道上で画像化処理を実行した結果、高速(約23秒)での画像化に成功した。 さらに圧縮処理することで、地上への送信データ量を生データ送信時の 1/1000以下(0.0845 %)に圧縮することができ、地上での SAR画像入手までの時間を大幅に短縮することができた。

・本技術実証により、ユーザーがリクエストしてから SAR画像提供までの即応性がより高まることが見込まれ、QPS研究所が目指す 36 の小型SAR衛星コンステレーション(複数の人工衛星によって、高頻度な地球観測を可能とするシステム)による準リアルタイム観測データ提供の実現に向けてさらに前進し、新たな価値の創出および社会課題解決の可能性、そして新しいビジネス展開が期待できる。

(JAXA「合成開口レーダ(SAR)データの軌道上画像化に成功」、PR TIMES「合成開口レーダ(SAR)データの軌道上画像化に成功」参照。)

● 衛星打ち上げ時に地元でパブリックビューイングを開催。1号機打ち上げの際は、500 名を超える参加者、新聞 5 紙、テレビ 10 番組、62 ウェブ記事で紹介された。 2 号機打ち上げの際はライブ配信で深夜にも関わらず 800 名以上の視聴、新聞 5 紙、テレビ 14 番組、107 ウェブ記事で取り上げられた。

● アンテナや衛星開発には 20 社以上の九州のパートナー企業が参加しており、「自動車シート製造で培われた縫製技術」や「板バネ」など、宇宙業界で使われていなかった中小企業が保有する優れた技術を盛り込むことで、収納式の大型パラボラアンテナを開発し、特許を取得した。

● 福岡市科学館での衛星展示のほか、QPS研究所社員、地場のパートナー企業エンジニアによる合計 28 回の技術講座実施。来館者は約 5000 人、講座参加者は合計 464 名と地域の宇宙業界の啓発活動を積極的に行っている。

● 本取り組みは、第五回宇宙開発利用大賞(内閣府主催)で内閣総理大臣賞を受賞(2022 年3 月)


【今後の展望】

日本工営、スカパーJSAT、ゼンリンと3 社共同で 2021 年 4 月に開始した「衛星防災情報サービス」では、衛星から得られるデータを解析、分析し、平常時の地形やインフラ設備の変状、災害時の被害情報などを詳細な地図上に表示、統計結果をユーザーのニーズに応じた形で提供しているが、大規模かつ同時多発的に発生する災害に対しては、被災箇所全域を、高精細に高頻度で撮影することが困難である等の課題がある。これに対し、QPS研究所のSAR衛星コンステレーションにより、高精細な画像データを高頻度に撮影することで、災害時の被害実態の早期把握、効率的な復旧に向けた情報提供が可能となるため日本工営と提携し、具体的な実証を進めていく。

事例が与えた影響

・衛星コンステレーションに向け、毎年、複数機を打ち上げるため、地元産業の活性化や宇宙産業を根付かせることによる技術継承にも繋がる。

・また、衛星の制御システムには、福岡県で生まれたプログラミング言語「軽量Ruby」を使い、開発期間も短く、低コスト化を可能にした。ハードとソフトの両面において地元の技術を活用することで、産業活性化に貢献。

事例の継続性

継続運用中

事例の運用期間

2019 年 12 月~継続運用中

参考資料

本事例は、「内閣府 第五回宇宙開発利用大賞受賞事例集」を中心として、以下の資料を参照して編集しています。
※ 以下の資料の参照先は、調査時点でのものです。参照先の構成によっては、リンク切れとなっている場合があります。あらかじめご承知おきください。

■内閣府 

●第五回宇宙開発利用大賞
https://space-award.jp/

・第五回宇宙開発利用大賞受賞事例集
https://space-award.jp/wp-content/themes/space-award/pdf/all.pdf

・小型SAR衛星コンステレーションによる準リアルタイムデータ提供
https://space-award.jp/wp-content/themes/space-award/pdf/1_primeminister.pdf


・「令和5年度小型SAR衛星コンステレーションの利用拡大に向けた実証」採択事業者決定
https://www8.cao.go.jp/space/kobo/kekka_r5.html

■IPQS
https://i-qps.net/

・PROJECT
https://i-qps.net/project/

・2023年6月13日火曜日(日本時間)にQPS-SAR 6号機「アマテル-Ⅲ」が打上げられ、初交信に成功しました! 2023.06.13
https://i-qps.net/news/1072/

・JAXAの「小型技術刷新衛星研究開発プログラムの 新たな宇宙利用サービスの実現に向けた2024年度軌道上実証に係る 共同研究提案要請」にQPS研究所の提案が採択されました 2022.12.16
https://i-qps.net/news/913/

■Twitter

・iQPS / QPS研究所/人工衛星開発 @QPS_Inc

■福岡県

・(追加)(株)QPS研究所による小型レーダー衛星「アマテル -1・2」打上げパブリックビューイングを開催します 発表日:2022年9月30日
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/press-release/amateru-onetwo.html

■S-NET福岡 福岡県宇宙ビジネス研究会

・QPS研究所 小型レーダー衛星「アマテル-Ⅰ・Ⅱ」打ち上げ パブリックビューイング
https://www.youtube.com/watch?v=aII03VQ759M

■JAXA

・合成開口レーダ(SAR)データの軌道上画像化に成功 2023年(令和5年)7月21日
https://www.jaxa.jp/press/2023/07/20230721-1_j.html

・イプシロンロケット6号機による革新的衛星技術実証3号機、QPS-SAR-3、QPS-SAR-4の打上げ日について[再設定] 2022年(令和4年)10月9日
https://www.jaxa.jp/press/2022/10/20221009-1_j.html

・小型SAR衛星群による新たなサービス創出等に向けた共同実証を開始 2021年(令和3年)6月23日
https://www.jaxa.jp/press/2021/06/20210623-2_j.html

・36機の小型SAR衛星による準リアルタイムデータ提供サービス事業の創出に向けたJ-SPARC事業コンセプト共創の開始について 2020年(令和2年)2月26日
https://www.jaxa.jp/press/2020/02/20200226-2_j.html

・令和 4 年度 ロケット打上げ計画書
https://fanfun.jaxa.jp/countdown/kakushin3-epsilon6/pdf/epsilon6_kakushin3_launch_planning_document.pdf

■福岡県半導体・デジタル産業振興会議

・福岡県半導体・デジタル産業振興会議について
https://www.robot-system.jp/about/

・【10.12開催決定】(株)QPS研究所による小型レーダー衛星「アマテル -Ⅰ・Ⅱ」打ち上げパブリックビューイングを開催します! 2022.09.22
https://www.robot-system.jp/support/2692

■S-NET

・JAXAとQPS研究所、合成開口レーダ(SAR)データの軌道上での画像化に成功 掲載日 2023/07/21
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230721-2732165/

■PR TIMES

・2023年7月25日(火)QPS研究所の小型SAR衛星6号機 「アマテル-Ⅲ」が日本最高分解能46cmの画像取得に成功~アジマス分解能46cm、レンジ分解能39cmを実現~ 株式会社QPS研究所 2023年7月25日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000039.000049970.html

・合成開口レーダ(SAR)データの軌道上画像化に成功 株式会社QPS研究所 2023年7月21日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000049970.html

・QPS研究所の小型SAR衛星6号機 「アマテル-Ⅲ」の打上げオンライン・パブリックビューイング開催決定のお知らせ 2023年6月以降にSpaceX社Falcon9で打上げ予定です 株式会社QPS研究所 2023年6月7日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000049970.html

■SPACE Media

・QPS研究所の小型SAR衛星6号機「アマテル3」、分解能46cmの画像取得に成功 公開日:2023年08月01日
https://spacemedia.jp/news/10068

■DRONE

・JAXAとQPS研究所、合成開口レーダ(SAR)データの軌道上画像化に成功。衛星でエッジ処理して高速化 2023年7月25日
https://www.drone.jp/news/2023072517585070172.html

■SORAE

・インド、PSLV-C48の打ち上げ成功。小型SAR衛星1号機「イザナギ」搭載 2019-12-12
https://sorae.info/space/20191212-pslv-c48.html

事例に関する問い合わせ先

株式会社QPS研究所
Tel: 092-751-3446
E-mail: contact@i-qps.com

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