東京都北区:ゼロカーボンシティへの挑戦と環境教育の推進

荒川と隅田川の2つの大河を擁し、東京都区部の最北に位置する北区。埼玉県と境を接するこの地は、製紙や繊維産業で栄えた工業の歴史を持ち、現在は住宅地と商業施設が調和する街へと姿を変えている。そして2024年発行の新一万円札の肖像となっている渋沢栄一の足跡が今も息づいている街でもある。1873年(明治6年)に飛鳥山に居を構えた日本の資本主義の父は、現在の渋沢史料館となっている晩年の邸宅「曖依村荘あいいそんそう」で、多くの実業家や知識人との交流を重ねた。

北区は、JR駅を中心とした市街地開発によって利便性が向上する一方で、渋沢が愛した飛鳥山公園や荒川河川敷などの緑地を大切に守り、都心に近接しながらも水や緑との共生を実現してきた。早くも2005年(平成17年)には「元気環境共生都市宣言」を行い、以降地域の特性を活かした具体的な環境施策を進めている。2021年(令和3年)6月には、2050年までに区内の二酸化炭素(CO₂)排出量実質ゼロを目指す「北区ゼロカーボンシティ宣言」を表明した。また 2025 年 4 月には、温室効果ガス排出源の測定と分析ができるプラットフォームの 1 つであるGoogle EIE(Environmental Insights Explorer)のデータを公開している。そこで、北区が推進する環境施策について、山田加奈子区長にお話を伺った。

北区環境ポータルサイトの公開

北区では、誰もが気候危機などの環境問題を自分ごととして考え、自分たちにできることを意識し、望ましい環境を共創することを目指している。これを実現するために令和6年(2024年)3月に「北区環境ポータルサイト」を立ち上げ、情報発信を行っている。

北区は「一人ひとりが環境を考え、ともに行動するまち」を目標とする環境像を掲げている。このサイトは、現状の環境データを見える化するとともに、この環境像の実現に向けたごみの削減と資源循環や自然との共生に関して区内の住民・事業者ができる取り組みを紹介。そのほか、環境保護に関する区内での取り組み、環境学習などのイベント、資料、助成・支援制度など豊富なコンテンツがそろっている。

東京23区では各区が環境関連の情報をウェブサイトで発信している。その中で北区のこのサイトは情報が体系的に整理され、区民にとってわかりやすい構成となっている点に大きな特徴がある。

ゼロカーボンシティ実現のための計画

ゼロカーボンシティの実現に向け、北区役所の事務や自ら行う事業での温室効果ガス排出削減のため計画書を策定している。最新版は令和5年(2023年)2月に策定された第6次計画だ。北区事務・事業での温室効果ガス排出の構成を見ると、電気63%、都市ガス・LPG33%とこれだけで96%以上を占める。この分野での使用量の抑制や自然負荷の少ないエネルギー会社の採用などに努めることが重要であることがわかる。

また具体的な削減目標を、2013年度比で「2027年度までに42%削減、2030年度までに51%削減」と掲げている。2018年度から2021年度までの年度ごと削減実績において、2021年度は23%の削減を達成。これは、2018年(平成30年)3月の第5次計画での2024年度の目標値15%を上回る成果となった。

ゼロカーボン達成のために以下の3つの重点施策を実施している。

  1. 区有施設での再生可能エネルギー電力の導入推進
  2. 区有施設でのZEB化の検討、公用車の電動化促進
  3. 職員の環境行動の推進

 ZEB(ゼブ)とは、建物の断熱性や省エネ性能を高め、さらに太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用することで、建物で使用するエネルギーと生み出すエネルギーを年間で差し引きゼロ以下にすることを目指した、環境にやさしい建物をいう。 建物の中で人が活動しているため、エネルギー消費量をゼロにすることはできない。しかし、省エネによって消費エネルギーを減らし、それでも必要となるエネルギーを、太陽光発電等により創り出される再生可能エネルギーですべてまかなうことができれば、その建物はエネルギー消費量が正味ゼロになったといえる。北区では、LED照明の導入、高効率設備導入の推進、太陽光発電設備導入の検討などによりZEB化を進める計画である。

北区ゼロカーボンシティロゴマーク

次世代太陽光発電システム——国内初の実証実験を開始

北区は、次世代の太陽光発電システムとして期待されている浮体式ペロブスカイト太陽電池に関する実証実験を支援している。

一般的な太陽光パネルは、シリコン型といわれ、黒い大型のパネルが特徴である。シリコン型の太陽光パネルは、耐久性や太陽光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率は高い。一方、屋外で耐久性を持たせるためにガラスなどで補強する必要があり、これにより重量が増してしまい設置場所が限られるという問題がある。これに対して、ペロブスカイト太陽電池は、薄くて軽く、柔軟であるという特徴を持っている。この特性を活かして、水上に設置したペロブスカイト太陽電池を「浮体式ペロブスカイト太陽電池」という。浮体式ペロブスカイト太陽電池は、水で冷やされるため、特に暑い日でも発電効率が落ちにくいというメリットがあるほか、使われていない水面の有効活用、設置のしやすさ、さらには藻の発生を抑えて水の蒸発も減らすなど、環境面でも期待されている比較的新しい太陽光発電技術である。

この次世代の太陽電池の実証実験を、区有施設の一つである旧清至中学校のプールを活用して、積水化学工業株式会社、エム・エム ブリッジ株式会社、恒栄電設株式会社と北区が連携を図りながら、2024年(令和6年)4月より実施している。浮体式ペロブスカイト太陽電池の実証実験は国内初の事例だ。

山田区長は、「区では2050カーボンニュートラルの実現に向け、さまざまな取り組みを進めている。このような世界的にも注目されている革新的な取り組みを公民連携で推進しながら、日本の技術が未来につながるよう後押ししていきたい」と語った。

旧清至中学校のプールを活用した浮体式ペロブスカイト太陽電池の共同実証実験 (出典:北区ウェブサイト)

未来をつくる子どもたちのための森林整備体験学習

北区では、環境学習についても熱心に取り組んでいる。子どもたちを対象とした「森林整備体験学習」は、その好例だ。

2024年7月には、北区の小学生20名が渋沢栄一ゆかりの地である北海道清水町で実施した、2泊3泊の森林整備体験学習に参加し、植樹体験や環境学習を通じて森林の重要性を学んだ。このイベントは、地球温暖化対策として森林が果たす役割を学ぶことを目的に、北区と清水町の連携のもとで実施された。7月14日の植樹祭では、北区・清水町の参加者総勢150名が約800本の苗木を植え、植樹の重要性や森林の循環に対する理解を深めた。

また、2024年11月には、友好都市である群馬県中之条町においても、北区の小学生を対象とした森林整備体験学習を実施した。参加した子どもたちは、実際に木々の生い茂る山に入り、不要な木の間伐を通じて、山の木々のサイクルを保つためには人の手によって整備されることが必要不可欠であることを学んだ。また、間伐体験や木工体験を通じて、森の管理の大切さや人間と自然の関わりについて知識を深めた。

なお、今後北区が環境学習を通じて森林整備していく区域で生み出されたCO₂吸収量を北区が排出する分のCO₂と相殺する等、地球温暖化を防止する目的のほか、森林資源を活かした事業を実施し、自治体の交流の場としても活用していくとのことである。

群馬県中之条町・間伐体験の様子(出典:北区環境ポータルサイト)

*                *                  *

今回の取材を通して、山田区長は「北区はゼロカーボンシティを目指し、省エネルギー対策やリサイクル活動を支援したい。また、友好都市とのカーボンオフセットや環境学習を推進し、経済と環境の好循環を図っていきたい」と意欲を語った。ゼロカーボンシティを目指す北区の取り組みを、VLEDとしても応援していきたい。

PAGE TOP