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コラム

人口減少社会にいかに立ち向かうか‐ 使える技術を総動員して「時間を稼ぐ」 ‐

2018年04月02日(月) [株式会社 三菱総合研究所 社会ICT事業本部  主席研究員 村上 文洋]

※このコラムは、「行政&情報システム」(2018年2月号)に掲載した連載企画「資源としてのデータを考える(第9回)」の内容を、発行者である「一般社団法人行政システム研究所」の了解を得て、掲載しています。

→ PDF版はこちら 「「資源」としてのデータを考える_9」 [779KB]

急激な人口減少社会への突入

第二次ベビーブーム(1971-1974年)以降の出生率の低下により、我が国の人口は2004年を境に減少に転じ、ついに急激な「人口減少社会」に突入した。よく目にする人口推移のグラフ(1950年頃から2060年頃まで=図1)では、我が国の人口はなだらかな増加傾向からなだらかな減少傾向へと転じたように見える。
しかしもっと長いスパン(例えば1000年単位=図2)で見てみると、明治維新以降の急激な人口増加から急激な人口減少へ、我が国は歴史的な転換点にいることがわかる。ジェットコースターの頂点に上り詰め、急速に落下するまさにその瞬間にいる。
ここで問題になるのが、我が国の社会制度や社会インフラなど、現在の社会を支えているものの多くが、人口急増社会に作られたものであり、人口激減社会には対応してない点である。
人口が減れば、消費も減り、税収も減る。働き手も減り、社会全体が今のままでは維持できなくなる。既に飲食店などでは人手不足が深刻化している。
戦後の高度成長期に作られた橋梁などの社会インフラが、補修費不足等により維持できなくなり、閉鎖を余儀なくされ始めている。使われなくなった住宅なども、今後ますます増加する。人口急増社会に整備した社会インフラが、負の遺産として次の世代に引き継がれてしまう。
現在の年金なども人口の増加を前提とした制度であり、人口減少時代への対応が難しい。

人口減少を食い止めるためには出生率を向上させるしかない

出生率(合計特殊出生率)が人口の維持に必要な2.08を切った1974年以降、人口減少社会に移行することは既に予測されていた。しかし衛生環境の改善や医療技術の向上などにより平均寿命が延びたため、1975年以降も人口増加は続いた。しかしここに来て、ついに人口は減少に転じた。人口減少を食い止めるためには、出生率を2.08以上に戻す必要がある。
諸外国の状況を見てみると、アメリカ、フランス、イギリス、スウェーデンなどは、2.0近くを維持しているか、一度低下した後、2.0近くまで戻している。一方、日本、ドイツ、イタリアなどは出生率が1.5を切っている。近隣の中国、韓国、台湾などの出生率も軒並み低い。我が国は出生率を高めるためにあらゆる施策を総動員する必要がある。そうしないと、日本という国が消滅してしまう。地方都市が「東京から人口を」とスローガンを掲げても、日本全体の人口が減少する中、縮小するパイを奪い合っても根本的な解決にはならない。
仮に施策の効果が出て出生率が高まったとしても、そもそも出産適齢期の女性の絶対数が減っているため、簡単に人口は増加しない。再び人口が増加に転じるには長い時間を要する。

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図1 我が国の人口の推移と将来推計
出所:「平成28年版 情報通信白書」

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc111110.html

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図2 我が国の人口の推移と将来推計(長期スパン)
出所:「国土の中期展望」中間とりまとめ概要(平成23年2月、国土審議会政策部会長期展望委員会)

http://www.mlit.go.jp/common/000135837.pdf

表1 諸外国の出生率の推移

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出所:「平成24年版厚生労働白書」
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12-2/dl/01.pdf

AIでもIoTでも技術を総動員して「時間を稼ぐ」

人口減少が続く中、人手で行ってきた様々な仕事を機械に置き換えたり、機械が補助することで高齢者や女性でもできるようにしたりするなどして、とにかく生産性を高め、日本の社会を維持する必要がある。「AIが仕事を奪う」とよく言われるが、我が国の場合、AIでもIoTでも使える技術は何でも総動員して生産性を飛躍的に高め、社会を何とか維持し、日本の消滅を先伸ばしする必要がある。こうやって時間を稼いでいる間に、出生率を高め、人口減少から横ばい・増加へと転じさせないといけない。

「Amazon Go」の衝撃

ここで留意すべきは「技術の使い方」である。2016年12月に、日本のメーカーが無人レジを開発したとニュースになった。買い物かごにバーコードリーダーが付いており、商品を入れると読み取る。レジ(無人)に持っていくと合計を計算し、タッチパネルで支払い方法を選択した後、現金やプリペイドカードなどで支払いをすます。なんと自動でレジ袋にも詰めてくれる。技術的には、なかなか高度なことも含まれている。
しかし間の悪いことに、ちょうど同じころ、アマゾンが「Amazon Go」を発表した。入口のゲートでスマホをかざして来店者を特定した後、店内のセンサーやカメラなどで人の動きを追い、どの商品を手にしたかを判断する。来店者は商品を手に持ったまま、あるいは自分の鞄に入れてゲートを出る。支払いは、アマゾンで普段、買い物するときと同様、クレジットカードで決済する。
このふたつのサービス(まだどちらも実験段階)を見て、何を感じるだろうか。Amazon Goの場合、来店者は、レジに並ぶことも現金を支払うこともない。欲しい商品を手にして店を出るだけである。まさに買い物体験の劇的な変革といえる。一方、日本の無人レジは、レジに並び、現金などの支払いも行う必要がある。来店者は決して便利になっていない。むしろ機械の操作方法に戸惑うのではないだろうか。店員が対応したほうが、よほど便利ではないだろうか。
しかも、Amazon Goは、来店者が店内でどのように行動し、どんな商品を手にしたか、すべて記録として残る。これは貴重なマーケッティングデータになる。さらには、来店者の行動が記録されていることから万引きの防止効果もある。来店者にとっても店側にとっても大きなメリットがあるのがAmazon Goである。

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図3 Amazon Go
出所:amazon(youtube)

https://www.youtube.com/watch?v=NrmMk1Myrxc

「サービスデザイン」と「シンプル・イズ・ベスト」

2017年12月22日の第31回電子行政分科会で提示された、政府の「デジタル・ガバメント実行計画(案)」では、サービスデザイン思考を具体化するための「サービス設計12箇条」が示された(表2)。民間サービスでは当たり前のことも多々含まれているが、行政機関の計画にこのような内容が盛り込まれたのは、ある意味画期的ではないかと思う。行政機関は往々にして縦割り、かつ提供者目線でものを考えがちである。
また、ものごとはできるだけシンプルに考えたほうがいい。行政機関のオンラインサービスの多くは、紙の時代の制度をそのままにして、技術でカバーしようとした結果、極めて複雑で使い勝手の悪いものになってしまった。情報システムを用いたサービスを考える場合、利用者にとっては極めてシンプル(Amazon Goは商品を手にして店を出るだけ)にして、その裏側で情報システムががんばり、データが走り回る形が望ましい。
オンラインサービスについては、日々激しい競争にさらされ、ユーザーニーズの把握と反映に努力している民間サービスのほうが、行政サービスよりも一歩も二歩も先を行っている。むしろ、民間サービスに行政サービスを組み込んでもらい、ユーザー接点は民間サービスに委ねたほうが、利用者にとっても行政機関にとっても幸せではないだろうか。

表2 サービス設計12箇条

第1条 利用者のニーズから出発する
第2条 事実を詳細に把握する
第3条 エンドツーエンドで考える
第4条 全ての関係者に気を配る
第5条 サービスはシンプルにする
第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
第7条 利用者の日常体験に溶け込む
第8条 自分で作りすぎない
第9条 オープンにサービスを作る
第10条 何度も繰り返す
第11条 一遍にやらず、一貫してやる
第12条 システムではなくサービスを作る

出所:第31回電子行政分科会 資料2
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/densi.html

2015年6月から続けてきたこの連載も、今回でひとまず終了です。この3年弱の間に、官民のデータ活用に関する意識や取組みも、ずいぶん変わってきたと思います。しかし、急速に進む人口減少は、私たちの社会に大きな課題を次々と突きつけてきます。技術と知恵を(そしてデータを)総動員して、この難局を乗り越えないといけません。みんなでがんばりましょう!ではまた。

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