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コラム

「サービスオリエンテッド・オープンデータ」 ~ オープンデータは第二段階へ ~

2016年09月21日(水) [株式会社 三菱総合研究所 社会ICT事業本部  主席研究員 村上 文洋]

※このコラムは、「行政&情報システム」(2016年6月号)に掲載した連載企画「資源としてのデータを考える(第4回)」の内容を、発行者である「一般社団法人行政システム研究所」の了解を得て、掲載しています。

→ PDF版はこちら 「「資源」としてのデータを考える_4」 [PDF 983KB]

2012年7月に我が国の「電子行政オープンデータ戦略」が策定されてから4年が経とうとしている。この間、政府のデータカタログサイト「DATA.GO.JP」で府省庁が公開するデータセット数は16,000件を超え、各府省庁のWebサイトの利用規約も、国際的な標準ライセンスのひとつである「CC BY」と互換性のある「政府標準利用規約2.0」に移行しつつある。オープンデータに取り組む自治体の数も200を超えた*1

一方、府省庁や自治体でデータを保有・管理する各原課からは、オープンデータ化する手間や、公開しても使われないなどの不満も出始めている。

これまでは、オープンデータにできるだけ簡単に取り組めるよう、まずは既にWebサイトなどで公開しているデータを二次利用しやすくするための、1)ライセンス(CC BYなど)と、2)データ形式(csvなど)の変更を中心に取り組んできた(第一段階)。この取組みは今後も継続・拡大する必要があるが、一方、データ活用を促進するためには、データ公開側だけでなく、データを活用する側からのアプローチが必要となる。このデータ活用側からのアプローチ(第ニ段階)が、本稿のテーマであり、「サービスオリエンテッド・オープンデータ」と呼ぶことにする(図1)。


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図1 オープンデータは第二段階へ
出所:三菱総合研究所作成

2015年12月に総務省が公開した「オープンデータ利活用ビジネス事例集」*2 では、内外の20の事例を取り上げ、3つのタイプに分類している(表1)。「新価値創造型」は、これまでにない全く新しいビジネスを創出するもので、社会に与えるインパクトは大きいが、事業化までに時間を要する場合が多い。「プラットフォーム型」は、無償または安価にサービスを提供する代わりにデータを収集・蓄積し、このデータを活用したビジネスを展開する。一方、「付加価値型」は、既にあるビジネスやサービスにオープンデータを付加することで、既存サービスの価値を高める活用方法であり、比較的すぐにオープンデータをビジネスに活用できる特徴がある。

表1 オープンデータ利活用ビジネスの3つのタイプ

タイプ 特徴 事例
付加価値型 ・既存ビジネスの価値を高めるためにオープンデータを利用する。
・データの加工は可視化などが主であり複雑な処理はしない。
・競合相手もオープンデータを自由に利用できるため、既存ビジネスの優劣を極端に変えることはない。
・Yelp
・MRIS
・Zaim
・ナビタイムジャパン
・サンゼロミニッツ(イード)など
新価値創造型 ・オープンデータを含む多様なデータをかけ合わせ、高度な分析によって未来を予測する。
・価値を生み出す源泉は新しく開発したアルゴリズムや分析モデル。
・オープンデータはアルゴリズムや分析モデルを開発する際にも利用される。
・The Climate Corporation
・PredPol
・BillGuard
・Zillow
・Opower など
プラットフォーム型 ・特定の領域のデータを大量に集め、プラットフォーム化する。
・集めたデータを利用しやすく提供することで最初の価値を生み出す。
・データの利用状況や利用者の状況を分析することで、さらに新しい価値を生み出していく。
・OpenGov
・Socrata
・Thingful
・カーリル
・ウェルモ など

出所:「オープンデータ利活用ビジネス事例集」

そこで、分野別に既存の主なサービスをピックアップし、各社へのヒアリング等を通して、既存サービスの付加価値を高めることができるデータ(=活用ニーズの高いデータ)を把握し、府省庁や自治体に働きかけてオープンデータ化を進めることが考えられる。

ただし、データをサービスに活用するためには、全国約1,800の自治体がそれぞれ異なるデータ形式で公開していたのでは、データの収集・加工に膨大な手間がかかってしまう。実際、家計簿アプリ「Zaim」*3 では、全国の自治体の給付金・控除情報を提供するのに、多くの人手・手間をかけている。データの共通化・標準化を進めることが、サービスで活用するための必須条件である。

「データとしての資源を考える(2)」(2015年10月号)でも述べたように、これからの行政情報サービスは、自前主義をやめ、既に多くの人びとが利用している民間サービスに、「いかに情報を掲載・活用してもらうか」を考えるべきである。これにより、行政はコストの削減、住民やサービス満足度の向上、サービス提供企業は効率的なサービス拡張を、それぞれ実現できる。また、サービスにデータを合わせれば、自然にデータの共通化・標準化が進み、他のサービスでも使いやすくなる(図2)。

分野別の既存サービス事例と活用が想定されるデータの例を表2に示す。 例えば、食べログなどの飲食店情報サービスは、新規開店情報などを電話帳情報会社から購入しているが、最近は電話帳に電話番号を載せない店も増えている。全国の保健所が保有する飲食店営業許可情報をオープンデータ化すれば、このコストが不要になり、カバー率も高まる。 自治体の補助金や控除などの制度に関する情報は、各自治体のWebサイトで公開されているが、必ずしも必要とする住民に情報が届いていない恐れがある。人々が日常的に利用するアプリ(例えば家計簿アプリのZaim)などを活用して情報を届ければ、より多くの人にタイムリーに情報を届けることができる。現在、Zaimは全国約1800の自治体の制度情報を人力で収集・整理・掲載しているが、データ形式などが共通化されれば、データ収集の負担が減り、より迅速に情報を届けることができる。 他にも、公共交通、道路、地域・不動産、健康管理など、様々な分野の既存サービスが、オープンデータにより付加価値を高めることが可能になる。政府や自治体にとっても、保有するデータの有効活用が進み、住民サービス向上などにつながる。「サービスオリエンテッド・オープンデータ」により、オープンデータの利用が進めば公開も拡大する。公開が進めば、思いがけない新たなサービスが生まれる可能性も高まる。

オープンデータの最終ゴールは、世の中が「オープン・バイ・デフォルト」(原則すべて公開)の状態になり、政府や自治体などの透明性が向上し、住民参加や官民協働が進み、様々なイノベーションや新規ビジネス/サービスが次々と創出される社会を実現することである。「サービスオリエンテッド・オープンデータ」は、最終ゴールである「オープン・バイ・デフォルト」の実現に向けた取り組みのひとつである。



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図2 これからの行政情報サービスのあり方
出所:三菱総合研究所作成

表2 分野別の既存サービスと活用データの例(オープンデータ以外のデータや民間保有のデータも含みます)

分野 既存サービス事例 活用が想定されるデータの例
飲食 ・食べログ
・ぐるなび
・Yahoo!予約など
・飲食店開業・廃業情報(店名、店名ヨミ、住所、電話番号、業種など)
・営業情報(営業日、時間帯など)
・外国語対応(メニュー、コミュニケーション)
・ハラル、アレルギー対応など
旅行・宿泊 ・じゃらん
・楽天トラベル
・トリップアドバイザー
・るるぶ
・一休.comなど
・周辺観光地の混雑予想
・天気予報
・鉄道や道路の混雑予想
・目的地周辺の古地図・史書
・目的地周辺の特産品、土産、食べ物
・目的地に関連する小説・エッセイ
・目的地周辺の花粉状況など
就職・転職 ・リクナビ
・マイナビなど
・企業情報
・ブラック企業情報
・地域別・職種別平均賃金情報
・同離職率情報
・本社・事業所周辺情報
・通勤可能な住宅地に関する情報
・環境への取組み、環境マネジメント・システム取得状況など
地域・不動産 ・suumo
・アットホーム
・サンゼロミニッツ(イード)
・生活ガイドなど
・地域特性比較データ
・地域の魅力度を表すデータ
・学区、教育施設
・行政サービス
・生活利便施設
・自治体広報データなど
通販 ・Amazon
・楽天
・ヤフーショッピングなど
・商品リコール・回収・事故情報
・商品テスト結果情報(国民生活センター)
・企業情報(商品の製造・販売元)
・小説・エッセイ・写真集などに登場する地域に関する情報
・原産地情報
・安全基準に関する情報
・環境への配慮など
子育て ・ウィメンズパーク
・子育てタウン(アスコエ)など
・自治体の子育て支援サービス・制度情報
・産婦人科・小児科情報
・保育園・幼稚園情報、待機児童情報
・学童保育情報
・民間の子育て支援サービス情報、施設立地情報
・子ども連れで利用できる飲食店、集客施設情報
・公園・緑地・緑道
・PM2.5の状況など
気象 ・ウェザーニュース
・ハレックスなど
・現地の監視カメラの情報
・河川水位情報
・交通運行情報
・通行止め情報
・目的地の気候に合わせた衣服
・花粉、PM2.5、黄砂の状況など
公共交通 ・ナビタイム
・駅探
・Yahoo!乗換案内など
・車両混雑情報(車両センサーから)
・駅混雑情報(監視カメラをもとに解析)
・事故時の代替交通手段情報
・車窓からの映像情報(ストリートビューの鉄道版)
・グルメ
・気象・花粉状況など
道路 ・カーナビなど ・通行規制情報
・道路混雑情報
・道路混雑予想
・プローブデータ
・気象情報
・道路台帳情報など
家計簿 ・Zaimなど ・自治体の補助金・控除制度情報
・物価変動
・公共料金値上げ(値下げ)情報
・チラシ情報(shufooなど)
・HEMSなどを用いた節電・省エネ情報
・税金や社会保障費の増減など
健康管理 ・SimpleDiet
・血圧ノートなど
・健康によい食品情報
・お薦めの運動
・近くの運動施設・サークル・イベント
・睡眠関係情報(グッズ、基礎知識)
・暑さ指数、花粉の状況など
運動管理 ・Runmeter
・Nike+ Runningなど
・近隣の運動施設情報(屋外、屋内)
・スポーツサークル情報
・スポーツ用品店情報
・スポーツイベント情報(行政、民間)
・暑さ指数など

出所:三菱総合研究所作成



*1 電子行政オープンデータ実務者会議 第4回公開支援ワーキンググループ及び第4回利活用推進ワーキンググループ合同会合資料1-1及び資料1-2より。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kwg/dai4/gijisidai.html

*2 http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/opendata03.html

*3 全国500万人以上が利用(2016年4月1日現在)している無料の家計簿アプリ(一部有償サービスもあり)。スマートフォンによるレシートの自動読み取りや、銀行、クレジットカードのWeb明細との連動、医療費控除対象費用の自動抽出、自治体給付金情報の提供など、便利な機能を備える。
https://zaim.net/

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