「サービスオリエンテッド・オープンデータ」 ~ オープンデータは第二段階へ ~
※このコラムは、「行政&情報システム」(2016年6月号)に掲載した連載企画「資源としてのデータを考える(第4回)」の内容を、発行者である「一般社団法人行政システム研究所」の了解を得て、掲載しています。
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2012年7月に我が国の「電子行政オープンデータ戦略」が策定されてから4年が経とうとしている。この間、政府のデータカタログサイト「DATA.GO.JP」で府省庁が公開するデータセット数は16,000件を超え、各府省庁のWebサイトの利用規約も、国際的な標準ライセンスのひとつである「CC BY」と互換性のある「政府標準利用規約2.0」に移行しつつある。オープンデータに取り組む自治体の数も200を超えた*1 。
一方、府省庁や自治体でデータを保有・管理する各原課からは、オープンデータ化する手間や、公開しても使われないなどの不満も出始めている。
これまでは、オープンデータにできるだけ簡単に取り組めるよう、まずは既にWebサイトなどで公開しているデータを二次利用しやすくするための、1)ライセンス(CC BYなど)と、2)データ形式(csvなど)の変更を中心に取り組んできた(第一段階)。この取組みは今後も継続・拡大する必要があるが、一方、データ活用を促進するためには、データ公開側だけでなく、データを活用する側からのアプローチが必要となる。このデータ活用側からのアプローチ(第ニ段階)が、本稿のテーマであり、「サービスオリエンテッド・オープンデータ」と呼ぶことにする(図1)。
図1 オープンデータは第二段階へ
出所:三菱総合研究所作成
2015年12月に総務省が公開した「オープンデータ利活用ビジネス事例集」*2 では、内外の20の事例を取り上げ、3つのタイプに分類している(表1)。「新価値創造型」は、これまでにない全く新しいビジネスを創出するもので、社会に与えるインパクトは大きいが、事業化までに時間を要する場合が多い。「プラットフォーム型」は、無償または安価にサービスを提供する代わりにデータを収集・蓄積し、このデータを活用したビジネスを展開する。一方、「付加価値型」は、既にあるビジネスやサービスにオープンデータを付加することで、既存サービスの価値を高める活用方法であり、比較的すぐにオープンデータをビジネスに活用できる特徴がある。
表1 オープンデータ利活用ビジネスの3つのタイプ
タイプ | 特徴 | 事例 |
付加価値型 | ・既存ビジネスの価値を高めるためにオープンデータを利用する。 ・データの加工は可視化などが主であり複雑な処理はしない。 ・競合相手もオープンデータを自由に利用できるため、既存ビジネスの優劣を極端に変えることはない。 |
・Yelp ・MRIS ・Zaim ・ナビタイムジャパン ・サンゼロミニッツ(イード)など |
新価値創造型 | ・オープンデータを含む多様なデータをかけ合わせ、高度な分析によって未来を予測する。 ・価値を生み出す源泉は新しく開発したアルゴリズムや分析モデル。 ・オープンデータはアルゴリズムや分析モデルを開発する際にも利用される。 |
・The Climate Corporation ・PredPol ・BillGuard ・Zillow ・Opower など |
プラットフォーム型 | ・特定の領域のデータを大量に集め、プラットフォーム化する。 ・集めたデータを利用しやすく提供することで最初の価値を生み出す。 ・データの利用状況や利用者の状況を分析することで、さらに新しい価値を生み出していく。 |
・OpenGov ・Socrata ・Thingful ・カーリル ・ウェルモ など |
出所:「オープンデータ利活用ビジネス事例集」
そこで、分野別に既存の主なサービスをピックアップし、各社へのヒアリング等を通して、既存サービスの付加価値を高めることができるデータ(=活用ニーズの高いデータ)を把握し、府省庁や自治体に働きかけてオープンデータ化を進めることが考えられる。
ただし、データをサービスに活用するためには、全国約1,800の自治体がそれぞれ異なるデータ形式で公開していたのでは、データの収集・加工に膨大な手間がかかってしまう。実際、家計簿アプリ「Zaim」*3 では、全国の自治体の給付金・控除情報を提供するのに、多くの人手・手間をかけている。データの共通化・標準化を進めることが、サービスで活用するための必須条件である。
「データとしての資源を考える(2)」(2015年10月号)でも述べたように、これからの行政情報サービスは、自前主義をやめ、既に多くの人びとが利用している民間サービスに、「いかに情報を掲載・活用してもらうか」を考えるべきである。これにより、行政はコストの削減、住民やサービス満足度の向上、サービス提供企業は効率的なサービス拡張を、それぞれ実現できる。また、サービスにデータを合わせれば、自然にデータの共通化・標準化が進み、他のサービスでも使いやすくなる(図2)。
分野別の既存サービス事例と活用が想定されるデータの例を表2に示す。 例えば、食べログなどの飲食店情報サービスは、新規開店情報などを電話帳情報会社から購入しているが、最近は電話帳に電話番号を載せない店も増えている。全国の保健所が保有する飲食店営業許可情報をオープンデータ化すれば、このコストが不要になり、カバー率も高まる。 自治体の補助金や控除などの制度に関する情報は、各自治体のWebサイトで公開されているが、必ずしも必要とする住民に情報が届いていない恐れがある。人々が日常的に利用するアプリ(例えば家計簿アプリのZaim)などを活用して情報を届ければ、より多くの人にタイムリーに情報を届けることができる。現在、Zaimは全国約1800の自治体の制度情報を人力で収集・整理・掲載しているが、データ形式などが共通化されれば、データ収集の負担が減り、より迅速に情報を届けることができる。 他にも、公共交通、道路、地域・不動産、健康管理など、様々な分野の既存サービスが、オープンデータにより付加価値を高めることが可能になる。政府や自治体にとっても、保有するデータの有効活用が進み、住民サービス向上などにつながる。「サービスオリエンテッド・オープンデータ」により、オープンデータの利用が進めば公開も拡大する。公開が進めば、思いがけない新たなサービスが生まれる可能性も高まる。
オープンデータの最終ゴールは、世の中が「オープン・バイ・デフォルト」(原則すべて公開)の状態になり、政府や自治体などの透明性が向上し、住民参加や官民協働が進み、様々なイノベーションや新規ビジネス/サービスが次々と創出される社会を実現することである。「サービスオリエンテッド・オープンデータ」は、最終ゴールである「オープン・バイ・デフォルト」の実現に向けた取り組みのひとつである。
図2 これからの行政情報サービスのあり方
出所:三菱総合研究所作成
表2 分野別の既存サービスと活用データの例(オープンデータ以外のデータや民間保有のデータも含みます)
分野 | 既存サービス事例 | 活用が想定されるデータの例 |
飲食 | ・食べログ ・ぐるなび ・Yahoo!予約など |
・飲食店開業・廃業情報(店名、店名ヨミ、住所、電話番号、業種など) ・営業情報(営業日、時間帯など) ・外国語対応(メニュー、コミュニケーション) ・ハラル、アレルギー対応など |
旅行・宿泊 | ・じゃらん ・楽天トラベル ・トリップアドバイザー ・るるぶ ・一休.comなど |
・周辺観光地の混雑予想 ・天気予報 ・鉄道や道路の混雑予想 ・目的地周辺の古地図・史書 ・目的地周辺の特産品、土産、食べ物 ・目的地に関連する小説・エッセイ ・目的地周辺の花粉状況など |
就職・転職 | ・リクナビ ・マイナビなど |
・企業情報 ・ブラック企業情報 ・地域別・職種別平均賃金情報 ・同離職率情報 ・本社・事業所周辺情報 ・通勤可能な住宅地に関する情報 ・環境への取組み、環境マネジメント・システム取得状況など |
地域・不動産 | ・suumo ・アットホーム ・サンゼロミニッツ(イード) ・生活ガイドなど |
・地域特性比較データ ・地域の魅力度を表すデータ ・学区、教育施設 ・行政サービス ・生活利便施設 ・自治体広報データなど |
通販 | ・Amazon ・楽天 ・ヤフーショッピングなど |
・商品リコール・回収・事故情報 ・商品テスト結果情報(国民生活センター) ・企業情報(商品の製造・販売元) ・小説・エッセイ・写真集などに登場する地域に関する情報 ・原産地情報 ・安全基準に関する情報 ・環境への配慮など |
子育て | ・ウィメンズパーク ・子育てタウン(アスコエ)など |
・自治体の子育て支援サービス・制度情報 ・産婦人科・小児科情報 ・保育園・幼稚園情報、待機児童情報 ・学童保育情報 ・民間の子育て支援サービス情報、施設立地情報 ・子ども連れで利用できる飲食店、集客施設情報 ・公園・緑地・緑道 ・PM2.5の状況など |
気象 | ・ウェザーニュース ・ハレックスなど |
・現地の監視カメラの情報 ・河川水位情報 ・交通運行情報 ・通行止め情報 ・目的地の気候に合わせた衣服 ・花粉、PM2.5、黄砂の状況など |
公共交通 | ・ナビタイム ・駅探 ・Yahoo!乗換案内など |
・車両混雑情報(車両センサーから) ・駅混雑情報(監視カメラをもとに解析) ・事故時の代替交通手段情報 ・車窓からの映像情報(ストリートビューの鉄道版) ・グルメ ・気象・花粉状況など |
道路 | ・カーナビなど | ・通行規制情報 ・道路混雑情報 ・道路混雑予想 ・プローブデータ ・気象情報 ・道路台帳情報など |
家計簿 | ・Zaimなど | ・自治体の補助金・控除制度情報 ・物価変動 ・公共料金値上げ(値下げ)情報 ・チラシ情報(shufooなど) ・HEMSなどを用いた節電・省エネ情報 ・税金や社会保障費の増減など |
健康管理 | ・SimpleDiet ・血圧ノートなど |
・健康によい食品情報 ・お薦めの運動 ・近くの運動施設・サークル・イベント ・睡眠関係情報(グッズ、基礎知識) ・暑さ指数、花粉の状況など |
運動管理 | ・Runmeter ・Nike+ Runningなど |
・近隣の運動施設情報(屋外、屋内) ・スポーツサークル情報 ・スポーツ用品店情報 ・スポーツイベント情報(行政、民間) ・暑さ指数など |
出所:三菱総合研究所作成
*1 電子行政オープンデータ実務者会議 第4回公開支援ワーキンググループ及び第4回利活用推進ワーキンググループ合同会合資料1-1及び資料1-2より。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kwg/dai4/gijisidai.html
*2 http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/opendata03.html
*3 全国500万人以上が利用(2016年4月1日現在)している無料の家計簿アプリ(一部有償サービスもあり)。スマートフォンによるレシートの自動読み取りや、銀行、クレジットカードのWeb明細との連動、医療費控除対象費用の自動抽出、自治体給付金情報の提供など、便利な機能を備える。
https://zaim.net/